セルフレジ特許訴訟Ⅱ

アスタリスクがユニクロを運営するファーストリテーリングを特許侵害で訴えた特許権侵害訴訟。アスタリスクは、さらにジーユー(GU)も訴えた。http://asx.co.jp/news/?p=574

同じ特許で2社を訴えることになったのかと思いきや、根拠となっている特許が異なることがわかったので報告する。

〔対ファーストリテーリング(ユニクロ)〕
 2019/9/24 東京地裁へ差し止め仮処分を申立て 根拠:特許第6,469,758号

〔対ジーユー(GU)〕
 2020/6/16 大阪地裁へ差し止め仮処分を申立て 根拠:特許第6,541,143号等

これらの特許がどんな関係にあるのか?

上の図のように、特許第6,469,758号と特許第6,541,143号とは、同じ特許ファミリーである。

では、具体的には何が違うのか?請求項1どうしを比較してみた。

特許第6,469,758号特許第6,541,143号
  物品に付されたRFタグから情報を読み取る据置式の読取装置であって、 物品に付されたRFタグから情報を読み取る据置式の読取装置であって、
  前記RFタグと交信するための電波を放射するアンテナと、 前記RFタグと交信するための電波を放射するアンテナと、
  前記アンテナを収容し、前記物品を囲み、該物品よりも広い開口が上向きに形成されたシールド部と、前記アンテナを収容し、前記物品を囲み、該物品よりも広い開口が上向きに形成されたシールド部と、
を備え、を備え、
 前記シールド部が上向きに開口した状態で、前記RFタグから情報を読み取る 前記シールド部が上向きに開口した状態で、前記RFタグから情報を読み取り、
  前記シールド部は、
前記電波を吸収する電波吸収層と
前記電波を反射させる電波反射層のいずれか一方または両方を含む
ことを特徴とする読取装置。ことを特徴とする、読取装置。

特許図面(特許6541143の図3)を参照して、明細書に「図3に示すように、シールド部44は、電波反射シート38が電波吸収シート40を包囲するように電波吸収シート40の外側に形成されている。」と説明されている。特許6541143の請求項1では、電波吸収層と電波反射層の両方が必要と規定しているのではなく、一方でも良いと規定されている。

特許第6,469,758号では、電波反射層も電波吸収層も含まないシールド部を使っている読み取り装置も特許権に含まれるのに対して、特許第6,541,143号では少なくともどちらか一方が使われていないと特許権の範囲に含まれない。このように、特許第6,541,143号の方が,少し範囲が狭くなっている。

〔簡単な考察〕

 特許要件は多い方が一般的に権利範囲が狭くなる。(A*B*Cの方がA*B*C*Dよりも権利範囲は広い) 一方、要件が多くて権利範囲が狭い方が、新規性や進歩性がないことを理由に特許権が無効にされるリスクは下がる。追加された要件Dまで含めた技術まで開示・示唆された公知文献を示さないと、新規性・進歩性を否定することができないからである。

 特許侵害訴訟には、訴えられた側(被告側)から原告の特許権について無効審判が申立てられることが多く、この事例でも同様である。

特許第6,469,758号には、無効2019-800078と無効2019-800041の2件、
特許第6,541,143号には、無効2019-800089の1件の無効審判が請求されている。

 原告のアスタリスクは、無効審判を経ても生き残る可能性が高い、より権利範囲の狭い特許を根拠として侵害訴訟を争うことにしたものと考えられる。

セルフレジ特許訴訟

「ユニクロが訴えられたセルフレジ特許 単純だから強力」という日本経済新聞の記事があった*1)ので紹介する。
*1)2019/11/5付日経xTECH https://www.nikkei.com/article/DGXMZO51957600Y9A101C1000000/

どんな風に単純なのか、そんな単純な技術がどうやって特許されたのか、少し詳しく調べてみた。

まず、特許訴訟について
原告(特許権者): (株)アスタリスク*2)
被告: ファーストリテーリング
対象特許: 特許第6469758 号

〔どんな風に単純なのか〕
特許された請求項1と代表図を引用する。RFタグを付けた物品を囲んで上向きに開口しているシールド部を備えていることが特徴。

【請求項1】
  物品に付されたRFタグから情報を読み取る据置式の読取装置であって、
  前記RFタグと交信するための電波を放射するアンテナと、
  前記アンテナを収容し、前記物品を囲み、該物品よりも広い開口が上向きに形成されたシールド部と、
を備え、
  前記シールド部が上向きに開口した状態で、前記RFタグから情報を読み取ることを特徴とする読取装置。

〔どうやって特許性(進歩性)が認められたのか〕
 審査では、蓋つきのRFID読取装置の引用文献1(特開2015-207119)と、前方と上方が開口した読取装置の引用文献2(特開2008-84058 )とを組合せれば容易として進歩性が否定された。
 文献1の技術は、客の存在する空間と読取装置の空間が連続しているために読取りに影響するという課題を解決するために蓋により密閉空間を作るもの。一方、文献2の技術は、上方と前方に開口をもつ読取装置。
 これに対して、出願人(アスタリスク)は、2つの技術を組合せることができないことを主張して特許された。引例1の読取装置で蓋を省略することは、密閉空間を作るという発明概念と矛盾するので組合せることができないと主張して認められた。(詳細には審査書類をご参照いただきたい。)

二次電池Ⅴ(続報) ~ポストLiイオンを探る~

日経電子版に同趣旨の記事が出ましたので、ご紹介します。合わせて、紹介されたスタートアップ企業4社の特許出願状況を調べてみました。

2020/7/28付け日経電子版の記事:「リチウムイオン電池の次、新興勢が開発に名乗り」
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61873050S0A720C2X11000/?n_cid=kobetsu

「CATL(CN)、パナソニック(JP)、LG化学(KR)が先行し、スタートアップ4社が追う。スタートアップ4社は、スリーダム、アジュールエナジー、コネックスシステムズ、AC Biode」

スリーダム

東京都立大学 金村聖志教授からのスタートアップ
2014年創業 神奈川県横浜市 https://www.3dom.co.jp/about/

製品発表
2020.7.27 400Wh/kg級リチウム金属二次電池 サンプル
2020.7.27 30Ah級リチウム金属二次電池 量産へ
など

スリーダムの特許

アジュールエナジー

富士フイルムの研究者 伊藤 晃寿氏のスタートアップ
2019年創業 宮城県仙台市 https://www.azul-energy.co.jp/

特徴
燃料電池用の触媒として使用される、白金炭素触媒の代替として、レアメタルを使わない金属錯体青色顔料と炭素を原料とした新素材「AZUL」を開発

自社特許は未だ確認できず。(2019年創業のためか)

コネックスシステムズ (CONNEXX SYSTEMS)

2011年創業 京都府相楽郡精華町 https://www.connexxsys.com/

製品発表
『これまでにない急速充放電を可能とするリチウムイオン電池「HYPER Battery™」を実用化』 3,500W/kg ( https://www.connexxsys.com/notice/post-2597 )(2020.2.26)
『BIND Battery®搭載の100kWh級蓄電システムをBCP用途に今夏より展開』(2020.2.26)
など

AC Biode

久保忠嗣氏創業のスタートアップ
2014年創業 京都府京都市 https://www.acbiode.com/

特徴: 正極(anode)負極(Cathode)と Biodeを備え、直流(DC)に代えて交流(AC)の充電を可能とした

まとめ

「ポストLi+電池を探る」という同じ狙いで、日本経済新聞から報道された(2020/7/28)ので、記事で紹介されたスタートアップ企業  4社について、特許出願状況調査

  • スリーダム:金村聖志首都大学東京教授による発明を中心に、外国出願にも積極的
  • アジュールエナジー: 2019年創業のため、特許出願は確認できず
  • CONNEXX SYSTEMS: 複合電池システムを中心に、外国出願も含めて、多数の特許出願がある
  • AC Biode:出願時は水と油の研究、現AC Biode CTOの水沢厚志氏の日本特許2件がコア技術。外国出願等は未だ確認できず

二次電池Ⅳ(国際特許(PCT)出願) ~ポストLiイオンを探る~

二次電池Ⅰ(概観)では国際特許分類IPCをH01M 10/00の二次電池に絞って国際特許出願について概観し、Ⅲ(日本特許)では1階層上のIPC H01M(電池)に探索範囲を拡大した上でキーワードで種々の電池に関する出願傾向を探った。今回は、同じ手法で国際特許出願の詳細を探ってみる。

注:手がかりを探る程度の検索であり、精査した結果は期待でない。精度を高めるには、検索式の調整や論文など他の情報源による検証が必要。

まとめ

ポストLi+電池を探る目的で、探索範囲をIPCで「二次電池」から「燃料電池」や「混成電池」含む「電池」に拡大
(国際特許分類(IPC) H01M 10/00→H01M )*キーワードで検索
日本出願を調査した。

注:手がかりを探る程度の検索であり、精査した結果は期待でない。精度を高めるには、検索式の調整や論文など他の情報源による検証が必要。

  • 全体として、2010年頃から出願件数は増加傾向(JPと同様)
  • 潮流を作りそうな電池はLi硫黄、Li空気電池

  • LG化学(KR)が、Li硫黄, Li空気電池の両方に注力

  • Li硫黄電池に関する出願では、グラフェン電極をコア技術にするNanotek Instruments (US)が存在感を高めている

二次電池Ⅲ(日本特許) ~ポストLiイオンを探る~

二次電池Ⅰ(概観)では、国際特許(PCT)出願に着目したが、今回は日本特許出願を詳細に分析してみる。

探索範囲を、[ IPC=H01M 10/00 二次電池とその製造方法 ] から、
1階層上の [ IPC=H01M ] に拡大。
[ IPC=H01M ] は、「化学的エネルギーを電気的エネルギーに直接変換するための方法または手段,例.電池」と定義されており、
  10/00:二次電池とその製造  以外に、
  6/00:一次電池とその製造
  8/00:燃料電池とその製造
  12/00:混成電池とその製造
を含む。

IPCの探索範囲を拡大した一方で、キーワードをANDして絞り込む。

注:多くのノイズを含むこととなるため、本来なら目視によるスクリーニング(ノイズ除去)を行うべきである。しかし、大まかな傾向を探るだけであれば何とかなるかもしれない。

まとめ

ポストLi+電池を探る目的で、探索範囲をIPCで「二次電池」から「燃料電池」や「混成電池」含む「電池」に拡大
(国際特許分類(IPC) H01M 10/00→H01M )*キーワードで検索
日本出願を調査した。

注:手がかりを探る程度の検索であり、精査した結果は期待でない。精度を高めるには、検索式の調整や論文など他の情報源による検証が必要。

  • 全体として、2010年頃から出願件数は増加傾向
  • 水素/空気電池は、燃料電池の一方式として自動車メーカーを中心に開発中か(?)
  • 潮流を作りそうな電池はLi硫黄電池。出願の中心はLG化学(KR)
  • 別の潮流はLi空気電池。NTTが注力(?)、パナソニックが参入(?)
  • Liの代替金属イオンを探る基礎研究は地道に継続中(?)