任天堂スイッチの特許戦略(2020.9-10更新)

任天堂 Switchを支える特許と意匠」は、2018年時点で調査結果を報告したもの。ゲーム機の製品寿命は、通常、それほど長くないので、改良発明がどんどん特許出願されていくことは考えにくい。一方、スイッチは、「あつまれどうぶつの森」の大ヒットもあって、2020年現在も一時入手が困難になるほどの売れ行きを誇っている。任天堂さんがこのようなロングランを予想して、またはロングランを狙って、改良発明の特許出願を積極的に進めてきたのか、或いは予想外のロングランに急遽特許戦略を変更したのか、現時点までに公開された特許からうかがい知れるのではないかと考えて探ってみた。

〘基礎出願からの特許ファミリー展開〙

一つ特徴的な点は、1件の基礎出願からの特許ファミリー展開である。特願2015-119707(2015/6/12出願)を優先権の基礎として、5件の特許出願がされている。

発明の名称で「情報処理システム・・・および付属機器」「ゲームコントローラ」「支持装置、充電装置、および操作システム」の3系統に大別される。

「情報処理システム・・・および付属機器」は、本体に2個のコントローラを接続して1人でプレイするケースから、コントローラを外して2人がそれぞれ持ってプレイするケース、それ以上の複数人でプレイするケースなど、ソフトウェア面に着目した発明を指向する特許群である。

「ゲームコントローラ」は本体とコントローラ(子機)の機械的、電気的な接続機構に関する発明を中心に、特にコントローラ側の構造的な発明を指向する特許群である。

「支持装置、充電装置、および操作システム」は接続されたコントローラが脱落しないような構造上の発明を指向する特許群である。

発明者も3つのグループに分けられることから、開発も当初は3グループ体制が採られていたのかもしれない。「ゲームコントローラ」と「支持装置・・・」とは内容的に明確に分けられない面もあるので、2グループ体制なのかもしれない。

特筆すべきは、どのグループでも少なくとも1件が2020年9月現在もなお、特許庁の審査に係属していることである。係属してさえいれば、さらなる分割出願が可能であり、特許請求の範囲を自由に作成することができる。出願時に開示した範囲を超えることは許されないが、表現を調整することができるので、模倣に対して強い牽制となっている。

〘基礎出願の海外展開〙

基礎出願のファミリーは、さらに外国へも積極的に出願されている。

欧州(ESはスペイン)、米国、中国への出願である。

〘改良発明などへの展開〙

改良発明を含む他の特許出願について、時系列にしてみた。分割出願等でも遡及日ではなく、実際に出願が受理された日を横軸にとり、どんな内容の特許出願がされてきているのかを概観している。

スイッチが発売された2017年3月の前年2016年には、前述の基礎出願の他には、音響効果、映像効果、振動効果、操作の感知など、基本的な機能についての特許出願が出そろい、さらにストラップのアタッチメントと充電方式についても出願された。

その後も基本的な機能についての出願は継続されており、改良が進められていることが窺われるが、2018年からは多様性が増したように見受けられる。Joy-Conと呼ばれる各種のアタッチメントやストラップ、タッチペンなどに関する出願が増え、それらは実際に発売されている。機能面を改良する発明については、どの程度実機に採用されているかまでは分析できていないが、出願件数としてはアタッチメントなどの件数より多く出願されている。ただ、アタッチメントではないが付属機器らしい「球状の筐体」は、まだ発売されていないようである(筆者の不明により見つけられないだけかもしれないが)。上のグラフでは2件の出願に見えているが、実際には同日出願のためにプロットが重なっており、5件の出願がなされている。近い将来発売されるのかもしれない。

「あつ森」の発売に合わせたのかどうかは定かではないものの、2018年から発明・特許出願のギアが上がったことは、間違いないようである。

追伸!(2020.10.1)

友人からの情報で、上の「球状の筐体」が既に製品化されていることが判明しました!

ポケモンの「モンスターボールplus」のようです。
https://www.pokemon.co.jp/ex/pika_vee/howtoplay/180713_03.html

こうしてみると、任天堂さんは、製品戦略と特許戦略がぴったり整合していてムダがないようです。儲けている会社は、こうあるべきなのかもしれません。

発明者分析を追加(2020.10.9)

発明者分析を追加した。「多様な技術分野への展開」(上述)で分析対象にした特許文献の数は、115件である。この115件の発明者一人一人について、何年の出願に発明者として関与しのかを集計した。

ご参考:この分析には、pythonを使った。Pythonプログラムについて詳しくは、「PYTHON奮闘記」ダウンロードしたcsvに対する発明者分析に公開したので、興味のある方はご参照いただきたい。

一般に、発明者分析からは、いろいろなことがわかる。会社がある製品の開発に当たって、どの程度の開発人員を投入したのか、どのようなエンジニアを投入したのかは、社外からはわからない。発明者はそのような開発人員の一部のはずなので、発明者分析をすることによって、間接的に窺い知ることができる。

発明者、出願年ごとに、出願件数を集計。発明者名は、公報に記載されているので、分析では実名がわかっているが、この図では非表示としてある。出願件数が多くなるにしたがって、赤色が濃くなるように表示している。但し、2020年8月までに出願公開された特許が分析対象なので、2019年後半以降に出願された特許は未集計。

基礎特許からファミリ展開された特許(この記事の最初の図を参照)の発明者12名のうち、8名は継続的に開発に従事しているように見える。毎年40名強の発明者が新たに発明/特許出願に寄与していることがわかる。1件の特許出願に関与しただけの発明者(黄色枠)も一定数あり、スイッチの開発チームに恒常的に投入されたのか、他部署からの協力に留まるのかは、明らかではない。

分析対象の年数がまだ短いので、傾向を明確に示すものではないが、開発人員を増員中であることは間違いなさそうである。

なお、発明者の個人名での特許検索が可能で、注目する発明者があれば、その発明者の発明履歴から、どのような技術分野でどの程度の経験を持った技術者であるかがわかる。他社からの転職もある程度、推定することができる(但し、同姓同名との区別が難しい場合がある)。